"「うつ」とよりそう仕事術 (Nanaブックス)" (酒井一太)
何も目新しいことはないかもしれない、何か大きな変化がおきるわけではないかもしれない。
特別なことは書いていないと著者は述べている。
しかし、私にとっては、新鮮な内容だったし、本を読んだ後には仕事に対する考え方の変化もあったし、”特別”な本だと思った。
「うつ」の状態がもたらす、こころと身体の変化については、客観的な医学情報、第三者の立場からはわかっているつもりだった。でも、本当の意味でわかっていなかったな〜と思う。
うつとは、自殺に追い込まれるほどのこころの苦しみではなくて、生きることへの意欲がわかないから苦しいのだと、そう感じた。
うつによる苦しみについて考えさせられると、同時に、まったく意欲がわかなくなったときにどうしたらいいか、薬と休養で、だんだん、よくなってから復職に、その後、どうすればいいのかを、毎日の小さな積み重ねを丁寧に書いてある。
達成感があり、なおかつ人の役に立ち、短時間で必ずできることして、いい気分で退社しようと言うことだ。日報が例に挙げてあった。気分よく終わって職場への悪いイメージを翌日に繰り越さないことが目的のようだ。
私は、ほぼ日手帳への記入を最後のタスクとしていますが、短時間で確実に終わるし、なんとなくすっきりする。医療職って、カルテへの記録が膨大すぎて、あまり日報を書くことって少ないけど、書いてみたらいいことが多いように思った。
2.期限がある仕事は、最初のスタートダッシュで逃げ切れ! |
今日できることが明日できるとは限らない、気分の波に飲み込まれる前に、最初のスタートダッシュで逃げ切れという考え方だ。確かに、この日にやろうと思っていても、その日にその仕事をする気分なのかどうかは誰にもわからない。
依頼されたときの勢いをもって、最初にスタートダッシュをかける!準備してから、取りかかるのではなく、とにかく荒削りでも作っておいて、残り20%を締め切り間際に完成させる。これは、ついつい、仕事をためてしまって、締め切りに追われる体質を改善できるかも。
早速、医学教育のプロジェクトに参加させていただくお仕事でするプレゼンについて、内容を考えてみあた。80%まではできていないけど、60%くらいは、骨格ができたように思う。これで、何となく安心感があるし、追い込まれても大きな失敗はないと思う。
タスクは全部完了させた方がいいに決まっている!と思われるかもしれないが、タスクが減ると著者はものすごい不安に襲われたという体験をしている。能力が足りないから、仕事がない、これくらいのことしかできない情けない人間だ、、、というように負の無限ループに入ってしまう前に、タスクを増やして5つ以下にしないことが大切なことのようだ。
どれだけ今ある仕事がなくなったら、気持ちいいだろうと日頃思うが、きっと、すべてから解放されたら、私はこんなことしてていいんだろうかと思い悩むだろうと思う。どちらにしても贅沢な悩みだ。
仕事術以外で、特に、参考になったのは、周りの人にうつ病の人がいたら、こんな風に接してほしいという部分だった。医療者としても、うつ病を患っている方、患っていた方を接する機会はある。
でも、正直、なんとなく表面的になってしまって、向かい合えない自分がいた。本著を読んで、何気ない一言がとてつもなくうれしく、意図しない一言が奈落の底へ突き落とすということがわかった。
すごくシビアで真剣な内容ではあるのだが、どこか飄々とした客観的な視点も持っている著者の視点で、うつで休職して復帰した人にどう接したらいいかっていう本も書いてほしいなと思ってしまった。自分の体験や同じようにうつで苦しんだ方との対談やインタビューをまとめたらおもしろいんじゃないだろうか。
医療職として、うつ状態の人とどう接するべきか、自分がうつにならない働き方とは、本当に小さなことだけれどこの積み重ねはきっと大事ということがわかる本だ。