病院薬剤師という仕事の枠を超えて、いろいろなことに手を出すきっかけになったのは、模擬患者(SP)の前田さんとの出会いが大きかったなあといまさらながら思います。いっしょに本まで書いてしまいました。編集協力のところに私の名前が入っています。
編集協力者には、あとがきなんぞを求められるかなあなんて思って、こっそり書いていた幻のあとがきを下に載せました。2010年10月くらいには、完成予定だったのですが、結局、2011年5月になりました。それでも、なんとか形になって、文章を書くということや世の中に本が出るということについて勉強になりました。
私が、SPに初めて出会ったのは、2006年のことでした。岡山大学医学部の学生を対象とした臨床薬理学の講義に、薬剤師として参加したことに始まります。臨床薬理学は、岡山大学病院薬剤部の部長が担当していて、毎年、中野先生が特別講義をされていました。
中野先生の特別講義では、学生が治験責任医師役として、治験をしてみませんかと患者に勧めるロールプレイをしています。そこに、SPとして前田さんが登場したわけです。初めて出会ったSPが前田さんでした。
その約1年後、縁があって、OPC(岡山薬剤師医療コミュニケーションの集い)のメンバーとなり、SP参加型のコミュニケーション研修を提供するという活動を始めました。当然、そこでは、前田さんをはじめとする岡山SP研究会のSPが、OPCに協力してもらっていたため、前田さんと知り合うことになったわけです。
前田さんと知り合って間もないころ、岡山大学病院内のスターバックスを通りかかったところ、頭を抱えて悩んでいる前田さんと岡山SP研究会のメンバーに出くわしました。どうやら、薬剤師向けのSP研修に参加するにあたり、シナリオを作ろうと苦労されていたようです。
SPのコミュニケーション学習への参加は、医学部が最初ですので、医師とのロールプレイを想定したシナリオは数多くありますが、薬剤師向けのシナリオとなると当時ほとんどありませんでした。そこへ顔を知っている薬剤師が、たまたま通りがかったわけです。私は、薬剤師として出会ったことがある患者さんを思い描いて、片頭痛の患者さんのシナリオをその場の思いつきで書き上げました。
そのとき、ものすごく感謝されたことに気を良くして、その後も響き合いネットワークのSP養成講座で使用するシナリオを考えたり、オシアの医療面接で使う学生向けのシナリオを提供したりしました。シナリオによって、コミュニケーション学習の場が、ずいぶん違ったものになることに気づき、その面白さにのめりこんでいきました。
もちろん、シナリオだけでコミュニケーション学習が成り立つわけではありませんが、岡山には、歴史ある岡山SP研究会があるわけですし、SPが演じることで自分の作ったシナリオに命が吹き込まれる瞬間は、ドキドキもしますがいつも発見の連続でした。
そのうち、シナリオ作成だけではなく、前田さんからスライドの作成も依頼されるようになりました。前田さんとの作業は、いつも刺激的で、実は費やした時間の半分は雑談かもしれませんが、1人のSPを通じて医学教育や医療コミュニケーションのいろいろな側面が見えてきました。と同時に、人間味あふれる前田さんの1人の人間としての魅力に引き付けられました。
SPをしているから感性が強いのか、感性が強いからSPをしているのか、どちらが先かわかりませんが、喜怒哀楽に生きる前田さんの感性の振れ幅には驚かされました。同時に、感性で生きているからこそ必然的に表面化してしまう、今にも崩れてしまいそうな前田さんの弱い部分も見えてきました。その崩れ落ちてしまいそうなところから前田さんを救ったのが、SPそのものであり、岡山SP研究会の仲間であり、松下先生であり中野先生であるということが次第にわかってきました。
SPに興味を持った私は、薬剤師教育にもともと関心があったので、ワークショップやSP研修に参加してSPについて勉強するようになりました。そこで、分かったことは、当たり前だと思っていたSPのあり方が、岡山SP研究会のSPは特別であったということです。
ある時、前田さんと岡山SP研究会が、以前からSPの本を作りたいという願いは持っていることを聞きました。長くSPをしていることで感じてきた苦悩や葛藤がたくさんあります。増え続けているSPに対して、自分たちと同じところで立ち止まらず、SPとして前進してほしいという願いを感じました。
その時、まったく本など書いたことが無いにも関わらず、お手伝いしたいと思いました。岡山SP研究会の願いを本という形に表現しないといけないという妙な使命感にかられたことを覚えています。
初めは、身の丈に合わない使命感だったわけですが、とにかく、前田さんと本の話をしている時が、かけがえのない楽しい時間になっていきました。前田さんと岡山SP研究会について、『表現しないといけない』から、『表現したい』という気持ちへ変わっていきました。
SPやコミュニケーションをテーマにしている限り、文字では表現することが難しいことばかりでした。しかし、対話の中で生まれてくる表現や感性が、何とか解決してくれたように思います。そのために、単に雑談しているともとれる時間が必要でした。この本は、長い、長い対話の中から生まれたと言っても過言ではありません。
中野先生が後押ししてくださったことで、未熟ながらも本という形にすることができました。応援してくださった関係者のみなさまに対して感謝の気持ちでいっぱいです。
私自身が、SPを知ることで、医療者として成長できたと感じることが数多くありました。SPに向けた内容ではありますが、この本を通じて、医療者の方にも何らかの気づきがもたらされることを願っています。
2010年10月吉日
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